P.87
この像は、寛政9（1797）年、に建立して寄進された。寄進したのは、新吉原江戸町１丁目質両替商、万字屋の妻佐野ひでという。彼女には久次郎とう子がいたが、14歳のとき舟遊びをしているときに水難死してしまった。彼女は霊を弔うために一葉観音像を建立した。

新吉原遊廓の名所の一つであった。遊び帰りの客が後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ、この柳のあたりで遊廓を振り返ったというところから名付けられた。京都島原遊廓の出入り口には柳が植えられていて「出口の柳」と呼ばれていた。それを真似て吉原でも柳を植えたのだという。しかし、江戸っ子は出口の柳ではなく「見返り柳」と艶っぽい名前を付けている。

江戸時代、真先（まっさき）稲荷は、墨田川を望む名勝の地で、吉原帰りの客が大勢やってきた。境内の茶屋は随分と繁盛したと伝えられる。なかでも「吉原豆腐」を材料にした甲子屋（きのえねや）の「豆腐田楽」は有名であった。

矢切の渡しは、寛永八年に関東郡代伊奈半十郎を管理者として幕府が始めた公営の渡し場で、「近郷の木こり、草刈、工作人の他は、いっさい川向うへ通してはならない。」と規定されていた。今も残る「観光渡船」矢切の渡しは、都内唯一の渡し船となっている。

P.133
この堀はよく魚が釣れたところだったが、夕方になって釣り人が帰ろうとすると、堀の中から「おいてけ」「おいてけ」という声がする。そのまま帰ると、途中で釣った魚がなくなっていた。それで「おいて堀」と呼ばれた。「魚と伝説」（新潮社）の著者末広恭雄教授によると、これはなまずの親戚でギバチという魚のことはないかといい、矢田挿雲（そううん）「江戸から東京へ」は「声の主は狸」（第五巻）として狸の恩返しで仇討ち話に作られている。