川崎長太郎抹香町 ; 路傍講談社1997.8
抹香町

P.53
川上竹六も、既に五十歳であった。弟がひとりあるだけで、女房子供なしの独身者である。
このところ、十余年、屋根もぐるりもトタン一式の、吹き降りの日には、寝ている顔に、雨水のかかるような物置小舎に暮らし、いまだに、ビール箱を机代わりに、読んだり書いたりしている。