P.169-P.170
津和野踊りに見られる覆面の装束は、敵をいつわるための方略であったが、その形をうけて、夏から秋にかけて夜を踊りまくる男女にとっては、カーニバルに類する覆面の効果が、大いに精神の放恣と弛緩に役立ったであろうことは想像に難くない。性の解放は、そこから起こりやすい。精神の放恣と弛緩ばかりではない、身近に異性と接して、かつリズミカルな身体の動作が伴うのであるから、その面からも肉体の整理は開きがちである。娯楽に乏しかった時代の、年一度の、素朴な、あけひろげな饗宴が、性の刺激をいざなう。
「ヰタ・セクスアリス」に登場する十歳のときの金井湛は、踊り手の会話から耳にした、愛宕の山(天神山)の男女の交歓とその後始末(猥雑な遺棄物)の朝の風景、「あそこにやあ、朝行ってみると、いろいろな物が落ちてをるげな」という媚笑の意味をはっきりとつかみ、「僕は穢い物に障ったような心持がして、踊を見るのを止めて、内へ帰った」としるしている。