国本昭二: サカロジー (時鐘舎,2007)

P.27-P.29
暗がり坂
つい最近まで、金沢に人に見られないで通り抜けられる坂があった。人呼んで「暗がり坂」。お茶屋町がはなやかなころ、旦那衆がこの坂を抜けて主計町や東のお茶屋に通った。
以前の暗がり坂は、幅120センチ、斜度12度、石段としては勾配の緩い方だが、下り口にたっても下り着く先が見えない、長さは50メートルもないのに、坂はふた曲がりもしていて先行く人の姿は見えない。踏み面(づら)も蹴上げの寸法も場所によって違うのがおもしろい。それは、はじめから設計された石段でないことを物語る。3分の1くらい下りると、石段は坂に変わる。こんなに短い距離で、こんなに変化に富んだ坂はそうざらにはない。
暗がり坂は、つい最近まで、石段ではなく、ひび割れしたコンクリートの坂で、その前は丸太の段だった。金沢市の修景工事事業で、石段に変わり、そこには水銀灯が輝いていて、明るくなった。人目を忍んで透時代ではないのだろうが「暗がり坂が明るくなった」という嘆きも聞く。