松川二郎: 三都花街めぐり (誠文堂,1932)

目黒不動の門前一円の地域がすなわち目黒の花街で、芸妓屋三十五軒、料理屋が四十軒。いかに竹の子に縁のある土地だからって何時の間にそんなものがにょきにょき芽を出したかと驚かれるが、大震災直後隣接町村の目覚ましい発展に伴った現象の一つである。もっとも震災前から十名位の芸妓はいたが、夏になると二子多摩川へ出稼ぎした程度の繁昌ぶりであった。 主なる料亭と芸妓 料理屋らしい料理屋は「角伊勢」と「大国家」位のもの。待合式の家ばかりで、是は待合が許可されていないためである。主なる家は右の他に、くらの家、互楽、松よし、田毎、勝美家、小はん亭、鈴はん、一の家等。

指定地として芸妓屋待合の公許されたのは極く新しいことで、漸く昭和四年の四月から、王子町大字豊島の俗稱「王子新地」の狭い一廓、ここに芸妓屋十四軒、芸妓三十五名、待合が六軒。料理屋で指定地内にあるは「新よし」位のもので、代表的料亭「扇屋」は駅前、音無川を庭の泉水のようにしてドッシリと構え、その他音無橋畔「美晴」、御殿下に「養老館」、王子稲荷のとなりに「紅葉館」という具合に散在。待合で代表的な家といえば「花家」だろう。