色川大吉: わが半生の裏街道 (河出書房新社,2017)原郷の再考から

鹿島家 P.12-P.13 フー坊には、ハナハチという祖父がいた。実名は八十八、ヤソハチというのだが、子供にはハナハチとしか読めなかった。 フー坊が見たころのハナナチは、町の芸者屋、鹿島家(かしまや)の「おとうさん」であり、みそめた女はめかけにしないで、片っ端から入籍させ、妻を7人も変えた男として知られていた。鹿島家は横道に面した門のある二階家で、内庭に滝をしつらえた池があり奥の深い屋敷だった。子供には妙に小部屋の多い秘密めかした家だった。 見番と芸者屋 P.16 昼時には送付はいない。見番の社長をやっていたので出かけている。 水揚げされる少女たち P.20 鹿島家には、まだ半玉(はんぎょく)という見習いの少女が二人いた。カヨとおスギが十三、四歳くらいになって「水揚げ」されたと聞いたとき、フー坊はひどいショックを受けた。兄に「水揚げ」って何だと聞いたら、兄は、「生きている魚を水から揚げて、まな板の上にのせ、はじめて包丁をいれるあれだ。カヨもそうされたのだ」と言い放った。「カヨを最初にヤッタ奴は、あのひげを生やした町会議員のジジイだ。」お座敷に出す前に、一本(一人前)になるご祝儀だとかいって、とくべつの水揚げ料をとり、カヨを三人にも四人にも廻したらしい。

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